高知大学では、海洋、生命、フィールドサイエンスを中心とした本学の研究の強みを生かし、国際通用性と 地域貢献性を兼ね備えた研究を推進することを目的とした『基幹研究プロジェクト』を、第4期中期目標・中期計画期間の目標として2022年度に立ち上げました。本プロジェクトは、基幹研究プロジェクトの1つであり、SDGs への貢献も含めた新たな価値の創造につながる研究成果を創出することを目指しています。
医学部附属病院に設置された「脳性麻痺再生医療研究センター」「光線医療センター」を中心として、医学部先端医療学推進センター内の「臍帯血幹細胞研究班」「光線医療班」、さらに異分野の研究者が一体となり、トランスレーショナルリサーチに取り組んでいます。これにより、現在行っている臍帯血再生医療と光線医療を融合・発展させ、新たな治療法や診断法の開発を目指します(図1)。
臍帯血による脳性麻痺再生医療
小児脳性麻痺は、胎児期または出生後の脳損傷によって引き起こされる運動機能障害であり、生涯にわたって身体と精神の機能に大きな影響を及ぼします。現在、根本的な治療法はなく、リハビリテーションなどの対症療法が主流ですが、医学部附属病院では、臍帯血幹細胞を用いた再生医療に取り組んでいます。
2017年から始まった「小児脳性麻痺など脳障害に対する自家臍帯血単核球細胞輸血」の臨床研究は、日本初の試みとして注目されました。この研究では、6例の脳性麻痺患者に対して自家臍帯血単核球細胞を単回輸血し、その後の経過観察を行いました。全例で有害事象は認められず、リハビリテーション単独で見込まれる効果以上の運動機能の改善が確認され、一部の症例ではコミュニケーション能力の改善も認められました。
さらに、医学部先端医療学推進センター・臍帯血幹細胞研究班では、治療メカニズムの解明と新たな治療法の開発を目指して基礎研究を進めています。独自に開発した脳性麻痺モデルマウスを用いて、臍帯血細胞が脳内環境を変化させる仕組みを詳細に解析しました。その結果、脳内に存在する神経幹/前駆細胞が障害部位に遊走し、サイトカインや成長因子の増加によって細胞保護作用や組織修復が促進されることが明らかになりました。これら、基礎的研究の成果を結び付け、臨床研究をより推進していくため、2020年に医学部附属病院に「脳性麻痺再生医療研究センター」を新設し、臨床と基礎の研究体制がさらに強化されました。
光線医療
光線医療は、特定の波長の光を利用して診断や治療を行う技術であり、特に癌の診断と治療において有望視されています。医学部附属病院は、2017年に「光線医療センター」を設立し、膀胱癌や悪性神経膠腫などの癌を対象に、蛍光を用いた光線力学診断(PDD)と光線力学治療(PDT)を推進し、「光線医療技術」を基盤としたオリジナリティの高い診断・治療を行っています。特に、5-アミノレブリン酸(5-ALA)を用いた光線医療に取り組み、医学部先端医療学推進センター・光線医療班と共に、基礎研究やトランスレーショナルリサーチを進めています。5-ALAは体内で代謝され、癌細胞に特異的に蓄積しやすい物質(PpIX)を生成します。休眠状態の癌細胞においてもPpIXが蓄積することや、PDTに対する感受性が高いことを見出し、癌治療の新たな可能性が広がっています。
研究の融合と新たな挑戦
脳性麻痺治療に用いられる臍帯血細胞は、様々な血球細胞が含まれており、その中でどの細胞が治療効果を示すのかはまだ明らかにされていません。そこで、5-ALAを使って特定の細胞を可視化できるようにし、細胞特性を詳しく調べています。臍帯血中には様々な幹細胞が存在することも報告されており、これらの細胞を簡便に同定できるのではないかと考えています。治療効果を示す細胞を臍帯血中から見つけ出し、また培養方法を確立することで、採取細胞数が限られるという臍帯血再生医療の課題を克服できるかもしれません。また、細胞製剤などにも応用可能となります。高知大学オリジナルの研究を融合し、新たな治療法や診断法の開発につなげていくことを目指しています(図2)。
さらに、本プロジェクトでは、臍帯血再生医療、光線医療の研究者に加えて、イメージング、データサイエンス、生命倫理の研究者と共に、対象とする疾患の拡大、臍帯血細胞の特性を活かしたより効果的な治療法の確立、光線医療技術の再生医療への展開、革新的な光線医療技術の創出にも取り組んでいます。高知大学では、先進的な研究と臨床の融合を通じて、さらなる革新を目指し挑戦しています。

